
【対談】前田健人 ✕ 森宣博 | 私達が"見えない資産"に投資する理由
時計は、数年で1,000万円が1,500万円になることがある。売れば、その差額が手元に残る。
では、目に見えない資産はどうだろうか。信用、評判、名前。どれも売り買いできないし、値札もついていない。それでも、経営者はそこにいちばん時間とお金を注いでいる。前回まで時計という「持てる資産」を語ってきた二人が、今回はその裏側にある「持てない資産」へ話を進めます。聞き手は前回と同じく、Nexus Media代表・森宣博です。

売れる資産と、売れない資産
森: 前回、時計の資産価値の話をうかがって、ずっと引っかかっていたことがあるんです。時計や不動産は、いざとなれば売ってお金に換えられますよね。でも経営者がいちばん大事にしているのは、売れないもののほうじゃないか、と。
前田: それ、核心だと思います。僕が時計を持つのも、突き詰めると「信用」のためなんですよ。いい時計をしていると、初対面の相手が僕を値踏みする時間が短くなる。「この人はちゃんとやってきた人だ」と、話す前に伝わる。時計そのものより、時計が運んでくる信用のほうが、実は高い買い物なんです。
森: なるほど。時計は、信用という見えない資産を手っ取り早く示すための、目に見える看板だと。
前田: そうです。ただ、看板だけ立派でも中身がなければすぐバレます。だから僕は、時計に恥じない仕事をしようとする。前回お話しした「規律」も、結局は信用を裏切らないための自分ルールなんですよね。
信用は、複利で増える
森: ここからは私の専門に近い話になるので、少し語らせてください。私がNexus Mediaでやっているのは、まさにその「見えない資産」を扱う仕事なんです。
前田: 待ってました。森さんのPRの話、僕も聞きたかったんです。
森: ありがとうございます。私たちは、PRを単なる宣伝だとは考えていません。企業や人が積み上げてきた信用や評判を、きちんと言葉と形にして、資産として管理できるようにする。それがNexus Mediaの仕事です。時計と違うのは、信用は複利で増えることですね。
前田: 複利。時計は買った瞬間の価値がベースですけど、信用は違うと。
森: そうなんです。いい仕事をすると、その評判が次の仕事を連れてくる。その仕事がまた次の評判になる。放っておいても勝手に育っていく資産なんですよ。前田さんが17歳の飛び込み営業から積み上げてきたものも、一件一件は小さくても、いまは前田さんという名前そのものが資産になっていますよね。
前田: たしかに。昔は「前田です」と言っても誰も知らなかった。いまは名前で会ってもらえる。あれも積み上げた資産だと言われると、腑に落ちます。
見えない資産の、こわいところ
森: ただ、見えない資産には、時計にはないこわさもあるんです。
前田: こわさ、ですか。
森: 時計は、乱暴に扱っても価値がゼロにはなりません。傷がついても、動かなくなっても、修理すれば戻る。でも信用は、一度の裏切りで一気にゼロ、どころかマイナスまで落ちることがあります。しかも、落ちたあとに買い直すことができない。お金を積んでも戻らないんです。
前田: それは本当にそうですね。時計は買えばいい。でも信用は買えない。
森: だからこそ、私たちは信用を「なんとなく良い印象」で終わらせないんです。誰にどう見られているか、どんな言葉で語られているか。データで見えるようにして、資産として守り、育てる。前田さんが時計を選ぶときに資産価値を見極めるのと、やっていることは同じなんですよ。
二つの資産は、支え合っている
前田: 面白いですね。僕は目に見える資産の話をしていたつもりが、その根っこは全部、見えない資産につながっていた。
森: 繋がりましたね。時計の世界的な価値も、突き詰めれば、そのブランドが何十年もかけて積み上げた信用が支えています。職人の精密な仕事が、信用を生み、その信用が資産価値になる。有形と無形は、対立するものではなくて、支え合っているんです。
前田: じゃあ僕らがやるべきことは、はっきりしていますね。いい時計を選ぶ目を持ちながら、その裏で、時計に恥じない信用を積み続ける。
森: まさにそれが結論だと思います。私も前田さんに時計を教わってきましたが、今日は逆に、見えない資産の育て方を一緒に確かめられた気がします。ありがとうございました。
おわりに
売れる資産と、売れない資産。時計から始まった話は、経営者がいちばん時間を注いでいる「信用」という見えない資産へたどり着きました。あなたがいま積み上げている資産は、売れば消えるものでしょうか。それとも、複利で育ち続けるものでしょうか。
