beyond the line 須田ユカリ 空間デザイナーインタビュー・アイキャッチ

beyond the line 空間デザイナー
須田 ユカリ

beyond the line/空間デザイナーインタビュー(須田 ユカリ)

情報が多すぎて、頭がいっぱいになる。そんなとき、足りないのは休む時間だと考えてしまいがちです。屋号「beyond the line」を掲げる空間デザイナー、須田ユカリ氏の答えは違いました。足りないのは「余白」であり、それは空間のつくり方で生まれるといいます。

そこで用いるのが「線」です。視界を遮る「面」と違い、線であれば背景も見えますし、風も流れます。パリの Japan Expo、新千歳空港、パリコレクションの舞台。国内外で「空」を届けてきた須田氏に、その考え方を伺いました。

プロフィール

氏名 須田 ユカリ(すだ ゆかり)
生年月日 1964年6月28日
出身 神奈川県横須賀市
屋号 beyond the line
肩書
空間デザイナー
「空」を届ける 空間創りをする造形作家
経歴
デザイン広告会社、イベント会社、音楽ビデオ映像会社を経て、ヘアアクセサリー会社・帽子会社でディレクションを担当
1998年 衣装装飾ブランド「yis」立ち上げ
2012年 制作物の幅を広げ、「stringworks」として空間創りを開始(パフォーマーとしても活動)
主な実績
パリ Japan Expo
新千歳空港
銀座 G735 外車ショールーム
映画『醒めながら見る夢』(辻仁成監督)
桂由美 パリコレクション
NHK『趣味の園芸』
Re:A(コスメ)CM
ザ・プリンスパークタワーホテル(現:ザ・プリンス パークタワー東京) ブライダル
受賞歴
2001年 全日本洋装コンクール 受賞
2022年 IDPA Award 受賞
2023年 IDPA Award 受賞
2023年 「中日国際デザイン文化交流マスター」アンバサダー授与
2026年 Biafarin(カナダ)国際アートプログラム 選出
運営サイト
SNS

インタビュー

それでは Nexus Media(ネクサスメディア)から、beyond the line の須田ユカリ氏にインタビューをしていきたいと思います。

――屋号の「beyond the line」という名前には、どんな想いが込められているんですか?

人々の余白を増やしていきたい、という想いで活動しています。感じる感覚を呼び戻すお手伝いをしていきたいのです。

今は情報過多の時代ですから、多くの方は頭がパンパンになっているように感じます。その状態をほどく手助けができればと思っています。「余白」があるからこそ、物事は循環していくはずです。そしてその余白は、考えすぎた頭を空にすることで生まれるものです。

余白づくりのきっかけとして、空間デザインでは視点をずらす技法などを使っています。「面」は遮るものですが、「線」であれば背景も見えますし、風も流れます。余白を感じる入口として「線」を用いているのです。

そもそも線は自然界には存在せず、人間が生み出したものです。その人間が生み出した線で、自然のような落ち着きのある空間をつくることを目指しています。

私は制作物単体ではなく、それが空間の中にあるからこそ相乗効果が生まれる、という考え方で活動しています。制作物をご覧になった方に、五感が蘇るような体験をしていただきたい。その想いを込めて「beyond the line」としています。

――具体的にどのような事業を展開されているのでしょうか?

空間デザイナーとして活動しています。エントランスや会場など、実際のスペースを拝見したうえで、ゆとりや余白が生まれる空間づくりをしています。

それに加えて、いま新しいプロジェクトを構想しています。公共の古い建物をお借りして、その建物が持つ雰囲気を生かした空間に私の制作物を置き、お客様をお迎えする場をつくる企画です。

その場でご用意するのは、ヨガ体験、お茶の時間、アートワークショップ、そしてイマジネーションを広げるワークショップです。イマジネーションのワークショップは、ふわっとした感情をあえて言葉にすることで、自分自身に向き合い、気づきを得ていただく時間です。

想定しているのは、40代から50代の女性経営者の方々です。会社の内でも外でも日々努力を重ねながら、迷いを抱えていらっしゃる方にこそ届けたいと思っています。企業向けのプログラムとしても展開していく考えです。

――須田さんが提供されているサービスは、主にどのような企業やお客様をターゲットとしているのでしょうか?

空間デザインのご依頼をいただくのは、おもてなしを大切にされている企業様や、来客・来場される方に気持ちのいい空間を届けたいと考えていらっしゃる企業様です。

具体的には、ホテル、ゲストハウス、リノベーションを手がける会社、イベント会場や展示会場のブースなどが中心です。

――同じ空間づくりを手がける方と比べて、須田さんならではの強みや特徴はどのような点にあるとお考えでしょうか?

私自身、アーティストとデザイナーの両方の活動をしています。その両方の目線から、クライアントの方と一緒に理想とする空間を考えていけるところが強みです。

――少しプライベートな質問になりますが、須田さんの趣味は何ですか?

最近は気功と漢詩です。

気功は、周りの悪影響を受けないように自分を整えるのに適していると考えています。実際に、いい気の流れを感じられています。

漢詩は、言葉の響きが日常の日本語とは異なるので、新鮮さと気持ちの良さがあります。一つの読み方にさまざまな意味があるので、言葉の美しさも感じられます。

気功も漢詩も、私にとっては余白づくりなのだと思います。自分を整え、気持ちよくいられる状態をつくる時間です。自分が穏やかに満たされているからこそ、人に与える余裕が生まれます。思いやりや優しい言葉、笑顔がベースにあって、それが仕事を通して誰かに届いたらいい。これもまた循環ですね。

――お仕事の中で、「楽しいな」と感じる瞬間はどんなときですか?

一番は人との出会いです。私の仕事は、多くのプロフェッショナルが集まって一つの完成品をつくり上げるものです。たとえばゲストハウスであれば建築系の方など、普段関わる人とは異なる分野の専門家とお話しする機会があり、新鮮な発見がたくさんあります。

また、人と人とのつながりや、その方のキャラクターを感じられたときも面白いと思っています。

――これまでの人生の中で、「大変だったな」と感じる出来事はありますか?

さまざまな経験をしてきましたが、私は振り返ることはせず、常に前を向いて生きています。

客観的に、冷静に生きていきたいと思っているので、「大変だ」と思うこともありません。失敗したら失敗したで「次はどうしようか」と考えをシフトしていくので、これまで大変だと感じるような出来事はないですね。

――最後に、今後の展望や目指していきたいビジョンについてお聞かせください。

還暦を迎えた今、アーティストステートメントでもお伝えしているとおり、良いゆとりを生み出していきたいです。

日常のなかの「気持ちいい」「ホッとする」といった、肩の力が抜ける瞬間を人々に届けていきたいと思っています。空間と人がつながり、いい気が流れる。そんな居心地の良い空間づくりを、国内外でさらに広めていきたいです。

【対談を終えて】

意外だったのは、「大変だったこと」を尋ねたときの答えでした。衣装装飾から空間づくりへ、日本からパリへと領域を広げてきた道のりですから、苦労話の一つも出てくるだろうと思っていました。返ってきたのは、振り返らないので大変だと思うこともない、という言葉です。失敗したら「次はどうしようか」と考えをシフトさせる。それだけだといいます。

過去でいっぱいになった頭には、次の一手は入ってきません。振り返らないという姿勢そのものが、ご自身のための余白のつくり方になっているのかもしれません。人に届けようとしているものを、須田氏はご自身の生き方でも実践されている。そう感じました。

考えてみれば、線でつくられたものは私たちの日常にもあふれています。窓の格子、椅子の背、吊り下げられた照明のコード。それらが視界を遮らずに立っているとき、視線は自然とその向こう側へ抜けています。須田氏がつくるのは、普段は意識しないその感覚を、もう一度手前に引き出す空間なのでしょう。空間と人をつなぎ、いい気が流れる場を国内外へ広げていく beyond the line の今後に、これからも注目です。